行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ 書籍
嫌だったら言ってね」 「嫌ではないが」 「が?」 「……スミレがまた泣くのはよくない」 ロランツさんが遠慮なくと言ってくれたので、その言葉に甘えて私たちは「勇者物語」をほぼ毎日見に行っていた。そして私は毎回泣いていた。たぶん今日の回でも泣く。フィカルはそれを心配しているらしい。 「大丈夫だよ、悲しいから泣いてるわけじゃないし」 「2幕の中盤がつらいといつも言っている」 「あーうん確かにつらいんだけど、そこは悲しみで泣いてるんだけど、そこからの展開が神だし最後は感動と喜びの涙になってるから。むしろ最後はハッピーエンドでスッキリしてるから」 創作したストーリーとはわかっている。でもつい過去につらいことがあったフィカルと重ね合わせてしまうようで、舞台上のフィカルが苦境に陥っているとどうしても涙を禁じ得ないのである。そこから立ち上がっていくフィカルの強さにも感動するし、あのストーリーには苦境のシーンがあるからこそ素晴らしいものになっていると思うので、泣いてしまうけどまた観たいと思うのである。 「それに泣いてばっかりじゃないよ! ほら、歌も上手いし動きも綺麗だし、見てるだけでもかっ……」 かっこいい、と言いかけたその瞬間、心配そうだったフィカルの目がジッと感情を消して私を見つめた。 「か……か……かわいいし! ユユナさんが!! 行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ - 再会は朝もやの中で. ね! !」 「カキルは?」 「えーと……役者としてはすごい……けどフィカルの方が好きだから!」 勇者物語の舞台が好きなわけであって、フィカル役のカキルさんに惹かれているわけではない、と説明をする私をじーっと見つめたフィカルは、しばらくしてから頷いたのだった。 ふう。 ほっと息を吐いてから窓を見る。さっきまで遊べ遊べと覗いていた竜の影がしれっと消えていた。竜の危機察知能力が働いたレベルだったようだ。危ない危ない。 ブックマーク登録する場合は ログイン してください。 ポイントを入れて作者を応援しましょう! 評価をするには ログイン してください。 +注意+ 特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。 作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。 この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。 この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。 小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ コミック
ぜひぜひ読んでもらいたい作品です。 Reviewed in Japan on February 15, 2021 Verified Purchase 動画の漫画書籍を読んで面白くて気になって注文しました。本の状態も綺麗で早く届いて助かりました。
行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ Book☆Walker
Top reviews from Japan There was a problem filtering reviews right now. Please try again later. 行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ 書籍. Reviewed in Japan on March 2, 2021 Verified Purchase 原作未読です。 突然異世界に迷い込んだ女子高生のスミレ(本名は菫子)が、 森でさまよって行き倒れそうになったところ、先に行き倒れてた男性(フィカル)を見つけて助けます。 その後、2人とも良い人に助けて貰って最初の街で暮らすことになるんですが、 フィカルがめちゃくちゃスミレに懐きます。それはもう柴犬のように! まさに忠犬って感じで懐いててかわいいです。顔は洋系イケメンですが… 今のところ恋愛要素はないです。 とにかく無口で飼い主には懐いてる柴犬、って感じです。 飼い主以外には塩対応、闘争本能もある、それが柴犬!!!
何? 行き先を示してくれたんじゃなくて? 何か来るよって? ばっと男を見上げてみても、相変わらず起きてるのかどうか怪しいほどぼんやりしている。もう一度茂みに視線を戻すと、さっきよりもガサガサが大きくなっていた。どう考えても何かが近付いている。太くて背の高い木が生い茂ってその間にツタだの何だのが這い回っているせいで、ガサガサの正体は見当すらつかなかった。混乱している間にもガサガサはどんどん大きくなっていく。その勢いは少なくとも新しい行き倒れ候補が現れたようには思えなかった。 人間ならまだいい。相手が話も出来ないようなイノシシとかクマとかだったらどうしよう。ほぼ体力ゼロ同士、美味しく頂かれる未来しか見えない。ちょうどよく血の匂いも漂っているだろうし。 走る元気もなく、まるで車の前に飛び出してしまった野良猫のように私達は固まっていよいよ激しくガサガサする茂みを眺めていた。